第5章 仕置きもの
『はぁっ、はぁっ、はぁっ……久々にこんな全力疾走した…。』
店から逃げるようにして駆け出した私は、駅に向かって走っていた。雪は降っていないにしても気温が低いことに変わりはない。
しかし、駅まで猛ダッシュしてきた私はほとんど寒さを感じない。
(…え?!もうこんな時間??)
電光掲示板に目をやるといつもの電車より、2時間弱も遅い電車が表示されている。
ギリギリまで接客していたのと営業が終わった後の雑談とが災いして店を出るのが遅くなってしまったのだ。
(とにかく早く帰らなきゃ!)
朝は、カフェオレだけを流し込んで家を出てきたので椎にメモなどはいっさい残していない。
前日にあらかじめ、明日は仕事だと言ってあったがその際に伝えた帰宅時間はとうの昔に過ぎている。
______…番ホームに列車が入ります。黄色い線より下がっ…
(お腹…すいたな…)
彼のことだから、帰ったらテーブル一面に料理を広げて待っていそうだ、などと考えるとつい笑みが漏れる。
(早く帰ろう。)
足早に電車に乗り込んだ私は、頬が緩むのを必死でこらえて最寄り駅に着くのを待った。
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電車に揺られること15分。ようやく最寄り駅へと着いた私は急いで帰路に着いた。
乗車中、一言くらい連絡を入れておこうと思ったが、彼が携帯を持っていないことを思い出した。
今の時代、携帯を持っていない人などいるのかとも思ったが、当の本人は"必要なかった"の一点張りである。
(やっぱり、ないと不便だよね…)
そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか私の住むアパートの前まで来ていた。
いつもは長く感じる帰り道も、どうしてか今日はあっという間に思えた。
自分の部屋の前に立ち、鍵を探すためにカバンを漁っていると、ふと違和感を覚える。
『あれ…?電気ついてない…』
周りの部屋が明るいのに対し、私の部屋だけが真っ暗だ。部屋の主がいないのだから明かりがついていないのは当たり前だと言われればその通りだが、今日は『彼』がいるはずだ。
何かと不便だろうと、彼にも鍵のスペアを渡してあるが、こんな時間に彼が外出しているとは考えずらい。