第4章 二宮和也の場合。
「にしても、ほんとカズって小さい時は私のこと大好きだったよね。」
いっつも部屋にいたし、この作文からだってわかる。なんて可愛いい弟なんだ。
「まあこの頃から好きの意味おかしかったけどね。」
「え?」
「俺寝てるに悪戯してたもん、余裕で。」
「悪戯?」
「うん、チューとか。」
「は!?」
「だって起きねえんだもん。」
「だ、だもんじゃないよ!6年生でチューしたの!?」
「ばかだな、6年生なんて盛りだっつの。」
「や、やめて!私の可愛いカズを汚さないで!」
そんなわけない!すぐ耳を赤くしてた小さいカズに、そんな下心があるはずない!純粋無垢なカズがチューなんてするわけない!
「あら、心外。その可愛い羊のふりしたカズが今や貴方の旦那ですけど。」と意地悪な顔をしてニヤっと笑う。
「ち、ちがう!私のカズは羊のふりなんて出来ません!」
ジリジリと近づくカズがに圧倒されて、徐々に後退りしてしまう。
すると急にカズの顔が変わる。
私が苦手な、あの顔。
眉を下げた、潤んだ瞳で、「僕を捨てないで」のあの仔犬の顔でわざと私を呼ぶ。
「ねーちゃん、
可愛くないカズは嫌いですか。」
両手で体重を支えるように、前のめりになり私に近づくカズの顔。
「か、ず」
「黙ろうか、ねーちゃん。」
「や、もうねーちゃんじゃ、」
「ねーちゃん、」
「…は、はい。」
「狼のカズも愛してね。」
仔犬の顔で優しく笑う。私が一番逆らえないこの流れ。カズは私の弱点を知ってて、わざとやってるんだ。
「…は、はい。」
「ふふ、言ったな、言ったよね?」
カズが子供っぽい顔で嬉しそうに笑う。ほんとにコロコロと表情が変わる人。
「昔も今も、大好きだよ、ねーちゃん?」
少し生意気で可愛い弟は、意地悪で優しい旦那さんです。