第2章 櫻井翔の場合。
夕方になり、友人とのお別れも落ち着いていた頃、真っ黒な制服を着た彼から声をかけられた。
キラッと光るゴールドのボタンは一切見えない。そりゃそうか。袖のボタンすらない。
「あらまあ、見事に売れましたね」
「え?ああ、ボタン?」
「女の子達、絶対嬉しいよ。
明日から翔くんと会えなくても、
それがあれば温かい気持ちになるんだよ」
「へえ、よくわかるんですね?」
「そりゃまあ、腐っても女子」
「あははっ、腐ってもって!」
そこは笑うところじゃありません!
…でも彼が笑うならやっぱり嬉しい。
「…あはは、」
「…は明日から
俺に会えなくても大丈夫?」
翔くんが笑う私の顔を覗いて優しく微笑む。
「…だ、大丈夫だよ!なにそれ!
あはははは、面白いこと言うなあ!」
「ホントに?」
「…う、え、う、うん」
「まじで?」
「え、っと、いや少し…」
「え?なんて?」
「す、少し…ううん、さ、みしい」
ほんとはすっごく寂しい。
一生の別れじゃないけど、こうやってすぐに会ってふざけあえる関係、約束もない。
お互いの新しい環境が出来て、そこに慣れて、いつの間にか連絡がなくなる。そんなことを想像すると、ものすごく泣きたくなる。