第38章 ピアノの調べ/榊太郎
私と榊先生
2人っきりの音楽室で奏でる曲は【エリーゼのために】
ピアノコンクールの課題曲。
私の奏でる音に瞳を閉じ、全身で感じてくれている。
この曲は、ベートーベン作曲の有名な曲。
身分違いの恋、結ばれない想い
そんな切なくも情熱的はこの曲は、今の私にリンクする曲
「……どうでしたか?」
弾き終えても、黙ったまま瞳を閉じたままの榊先生に問いかけてみる。
「ミスタッチが有るが、気持ちはこもっている」
そうですよ。
だって、榊先生を想いながら弾いているんですから……
声にだして言いたいけど言えない。
「だれか想う人でもいるのか?」
はい、榊先生です。
言葉にだして言えない想いだから、せめて瞳で語らせて
真っ直ぐにあなたを見つめる私の熱を感じて欲しい。
「若いうちはいろんな恋愛をした方がいい」
「それは義父として? それともピアノのため?」
「どちらでも有るな」
ふっと頬を緩めて私を見る視線は、明らかに義父としてだよね?
私の気持ちを知らないふりをしているのが、よくわかるよ。
そんなにも母が好きなの?
もう、亡くなって5年がたつのに……
榊先生と母がどんな恋愛をして結婚したのか
私は知らない。
物心ついた時から父がいなかった私には父という存在が理解出来なくて
初めて榊先生を父として紹介されてもピンとこなかった。
だから、私の中では榊先生を異性としてしか見れなくて……
母に悪いと思いながらも、彼に恋をしてしまっていた。
眠れない夜、あなたを想いながら自慰行為に溺れた私。
でも、
あなたの中では私は、ただの子供