第2章 本屋さんまで[黒子]
本屋さんでも行こうかなーと街をふらふらっと歩く。
一人で人の少なくなった夕方を、赤い雲を眺めながら明日のことを想像してた。
「あきほさん?」
いきなり耳元で声がした。
私の彼は、いつも私が気づかないうちに、すぐ近寄ってきてて、姿よりも先に声がする。
慣れるまでは飛んで驚いてたけど、
最近は慣れたというか、彼の声がすると嬉しくて驚くのがもったいない。
「テツヤくん!こんなところでどうしたの?」
「新しい本を買おうと思いまして。全部読み終わってしまったんです」
「奇遇だね。私も本屋さんにでも行こうかなって思ってたの」
一緒に並んで歩く。
彼は同じクラスの火神くんの影だと言うけれど、
当然、バスケの選手じゃなくて、一人の人として私の隣にいる彼は、夕日に照らされて、私の影の隣に長く伸びた影を作る。
後ろをちら見して、影だけがくっついて歩くのを、少し羨ましいと思う。
「最近は驚いてませんね。あきほさん」
「うん。慣れたし、それにテツヤくんの声を聞くと、びっくりするより先に嬉しくなっちゃって」
それは良かったですと、彼は呟いて歩調を早めた。
耳が赤いのは夕日のせいだけではないと思うのは、自惚れかな?
「驚いてほしい?」
「そうでもないですけど……うん、でも、あきほさんをびっくりしてもらうのは、ちょっとツボだったかもしれないです」
「だから、影を羨ましそうに見ないでください」
「え?」
「気づいてました。僕らの影を見てましたよね。手、貸してください」
そう言って彼は私の手をふいと握った。
突然の出来事に口がふさがらない。
「影に嫉妬されるのも、困ります。それに、こうしたら、あきほさんの可愛い表情も見れます」
振り返りながら、嬉しそうに笑うテツヤくん。
本屋さんまでこのままいいですよね、とご機嫌そうに言う。
私の顔が赤いのは、ほとんど沈みかけた夕日のせいなんです。