第1章 Prorogue
「俺、お前となら付き合ってもいい」
放課後の教室に二人きり。
窓からグラウンドで部活にうちこむ生徒たちの声が聞こえてくる。
杉野まどかは、腕を組み窓枠にもたれるクラスメートを見つめ返した。
「……私と?」
「ああ」
彼──学年一モテると噂の、右耳にピアスが光る金髪の男子──から目を逸らした。
「気持ちは嬉しいけど、付き合うことはできないな」
ごめんね、とこれまで何人に言ってきたか分からない謝罪をする。
「そっか、悪ぃな」
じゃあこれからも友達ってことで。
…そう言って教室を出ていく彼を見送ってから、まどかは堪えきれずに頬を緩めた。
(学年一のモテ男に…やっぱり私すごい‼)
まどかにとって、告白されるということは一種のステータス。
幼い頃から容姿に恵まれた彼女は文字通りモテモテで、男子からはもちろん女子からもチヤホヤされてきた。
自分が美人であると自負している彼女は、性格こそ悪くはないが、誰もが自分を好きになって当然だという絶対の自信を持っている。
しかし、誰とも付き合ったことはない。
告白されて満足してしまい、相手に恋愛感情を抱くまで気持ちを向けられないのだ。
そう、まどかが相手をオトすことはできても、まどかをオトした相手は今まで誰一人としていない。
(さぁて、次は誰に好きになってもらおうかな)
まどかは鞄を持ち、足取り軽く教室を出た。