第1章 悲しみ
~ティキサイド~
何となくロードと共に居た。
千年公からの指示があるまで、
暇だったからロードの相手をしていたのだ。
ワインを傾け、血のように赤い色を光に透かす。
「あーあ...消えちゃったぁ」
椅子に座っていたロードが、
寂しげに呟いた。
その頬を流れる涙を見つめ、
俺は首を傾げる。
「何が消えたって?」
ワインのグラスを揺らし、一口飲んだ。
飴をつまんだロードは立ち上がり、
大げさに手を大きく広げてみせた。
「歌姫だよぉ、僕の娘~!」
聞いた瞬間、ズキッと胸に痛みが走る。
でも、俺はその痛みを無視した。
何でもないような顔でロードに問い掛ける。
「へぇ...とうとう消えたんだ。
結構長く保ったんじゃない?
...消えたのは『歌姫』だけ?」
ほんの少しの希望を、質問に込める。
「そうだと思うよぉ~。
ティッキーも感じるでしょぉ?
それに一番よく分かってるのは
ティッキーじゃない?」
よく分かってる、というのは
どういうことなのだろう。
疑問を感じつつ、
壁に寄りかかってこちらを見る
ロードから視線を逸らした。
天井を見上げ、驚きと安堵をため息に乗せる。
「...まさかあいつが生き延びるなんて思わなかった」
すると、ロードは不満げに唇を尖らせた。
「リランが生きててもさぁ~...。
『歌姫』じゃなかったら意味ないよぉ。
てゆーか、ティッキーは悲しくないのぉ?」
「別に」
素っ気なく答えると、
ロードはもっと頬を膨らませる。
「リランは一応、僕の娘だったのにぃ~...」
「一応?」
「歌姫ってねぇ、別に『最初』の僕の
血を濃く引いてる訳じゃないんだよぉ。
ブックマンですら知らないだろうけど。
歌姫が第9使徒の娘って言われるのは、
その血に眠る力が第9使徒に似ているからなんだぁ」
「じゃあ別に...本当の娘みたいに
血が繋がってるわけじゃないってこと?」
「そうだよぉ」
俺は、ソファーに沈み込んだ。
ややこしいねぇ、と呟く。
「だってぇ、子守唄を歌う歌姫と
夢を見せるノアだよぉ?
ほら、似てるでしょぉ?」
言われてみれば、確かに。