第8章 2-第四話
祥さんは匡に懐いていた三つ子を教練と称して半殺しにした。今でも剛さんは赦していない。いや、本当に赦しているものなどいない。
「あれで精神的にもダメージを負って、瀕死の状態から快復した後も心を閉ざしてしまって……。」
「匡様が元の太郎に戻してくれたんですよ。優しいのは元からですけど、あのくらいの年の子に特に優しいのは…別れた時の年頃だからでしょうか…。姫様を思い出すのだと仰っていましたよ。」
本当に毎日、姫様の話は聞かされたものだ。それに蘭も結構煩かったからな。一日だけだったのに疲れた。
「この十年、匡様は姫様のお話をしない日はありませんでしたよ。」
「失礼ながら、お会いする前から私も妹のように存じあげておりました。」
いつも匡様は聞いているだけなのに好みや性格などがとてもよく伝わってくる、とても生き生きした話し方だった。
「私がこういう柿が好きだってことも…」
「えぇ、だからこの木は残しておいたんです。」
幼い頃の姫君と柿を取って遊んだというお話は幾度も聞いた。
「匡様がそれ程好きな方にお会いするのを、皆楽しみにしていたんですよ。」