第29章 〈ONE PIECE〉とあるモブ女の心情
私はただの一般人。どこにでもいる、極々普通のOLだ。名前も語る必要はない。
独身で、彼氏はもう数年間いない。周りは少しずつ結婚しているが、自分には浮いた話もない。
そんなつまらない日常の中で、唯一の楽しみは小説や漫画を読むこと、そして……。
『キャーーー!!! エーーースーーー!!!』
アイドルの追っかけだ。こんなことをしているから、彼氏ができないということは重々分かっている。周りにも言われる。でも、辞められない。
そもそも私がアイドルの追っかけを始めたのは児童文学小説の『ONE PIECE』が大好きで、それが作者の尾◯先生考案の元、実写ドラマ化することになったのがきっかけだ。小説自体は20年前に発売されており、1冊の長編物で完結している。発売してからずっと読まれているロングセラー作品だ。この本の主人公や登場人物には普通の小説と違って名前がない。先生が読んでる人たちの身の周りの人間に置き換えて楽しんでほしいという理由から、英語の頭文字のみ表記されていた。そして、それがこの小説の売りの1つでもあった。
基本的に実写化が好きではなかった私は尾◯先生が脚本を書くとは言え、当初は実写化に反対していた。たくさん妄想をして楽しませてくれた『ONE PIECE』を汚されたような思いだった。