第20章 〈エース〉それでもあなたが……
「……」
あの時のことが、すごく昔のことのように思える。
「わたしね……あの日のこと、まだ夢の中でのことだと思ってる自分がいるの」
ーあの日、エースが死んだ日、夢だと思った。嘘ではなく、本当に。そんなはずないと思った。目の前で、エースが死ぬなんて……。考えたくなかった。
「……それは俺もだよい」
わたしはマルコを見た。
マルコはわたしの方を見ないで、ずっと空を見上げていた。ーーわたしにはそれが、友に語りかけているように見えた。
「そうね……」
きっと、みんな信じたくない。それでも、前を向いて明日へと一歩を踏み出している。
「ねえ、エース」
わたしは空へ語りかけた。
「あなたは今、どこにいるの?」
ー上でみんなを見守っているの?
ーそれとも、弟の近くにいて弟を守ってるの?
ーそれとも……。
(私の近くに……)
ーいてくれたらいいな、なんて……。
「……」
わたしは黙って俯いた。ーーそんな自分勝手なこと、言えるはずがない。
「きっと」
マルコがそんなわたしに声をかけた。目線は空に向けたまま。
「親父と一緒に天国で見てくれてるよい」
それだけ言うと、わたしの方へと顔を向けて優しく笑った。
「そうね」
わたしも笑って言った。