第16章 〈エース〉炎のあなたは
エースは思わず息をのんだ。
月明かりに照らされたリーネの瞳は酔いで潤んでいるはずなのに、妙にまっすぐで逃げ場がなかった。
「……リーネ、そんなこと酔って言うなよ」
黒髪の男は困ったように眉を下げて笑う。けれど、その耳の先が少し赤い。
「ほんとのこと言ってるのに〜」
頬を膨らませて、リーネは彼の胸に手をついた。彼女の少し温かい体温に、エースの喉が一瞬だけ鳴った。
「……まったく、お前ってやつは」
エースは軽く頭をかきながら、リーネの肩に手を回す。
その手は優しく、でも逃がさないように少しだけ力がこもっていた。
「ありがとな……でも、そんな風に言われると照れるんだよ」
月光の下、彼が微笑む。
炎のような強さを持つ男が、今は夜風に溶けるほど穏やかな顔をしていた。
「俺がかっこいいかどうかはともかく……お前にそう見えてるなら、それでいい」
リーネはぼんやりとその声を聞きながら、眠気に引きずられる。
次第にエースの胸元に身体を預け、まぶたが落ちる寸前――耳元で、低い声が囁いた。
「……俺にそんな顔、他のやつに見せんなよ」
胸の奥が、酔いよりも強く熱を帯びた。
けれどその熱の正体を確かめる前に、女はエースの腕の中で静かに眠りに落ちていった。