第1章 人間と国とシフォンケーキ(APH/ロヴィーノ・ヴァルガス)
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「私、シフォンケーキ好きなんです」
一人分に切り分けた、ふわふわの生地をフォークでつつきながら言いました。「余計な飾りが何にもなくて、気取っていなくて、とても好きです」
「俺は基本なんでも食えるね」
テーブルの中央に置かれた一輪挿しの薔薇の花。その花びらの向こうに座るロヴィーノさんが、大きな口でケーキを頬張る姿が見え隠れします。
「お菓子はなんでも好きなんですか?」
「割とな。なまえは?」
「私は、穴の空いてるお菓子が好きです」
シフォンケーキは、ひとくち食べると口の中がふわふわしっとり。あっという間に舌の上から消えてしまいます。夢の時間と同じです。
「なんだよ。穴の空いてるお菓子って」
「ドーナツとか、バームクーヘンとかです。あとは、」
うまい棒、と呟くと、ロヴィーノさんは、何なんだよ、それ、と声をあげて笑い出しました。
土曜日の午後。窓の外は日が傾きかけていて、どこか牧歌的に感じられます。シフォンケーキはチョコレート味。日めくりカレンダーの日付は14。ここイタリアでは、今日は恋人たちが愛を確かめ合う日です。
- おしまい -