第4章 【ハンドルネーム ままコさん】
ある日、部活を終えて力は帰宅した。いつものように母にただいまと言って二階に上がると美沙の部屋のドアがガチャと開く。
「兄さん、おかえり。」
力が帰ってくると美沙は基本的に顔を出して挨拶をする。今ではすっかりいつものことになったこれは人見知りの美沙がまだ慣れていない頃に少しでも義兄と会話をせねばと自ら課したものだった。なかなか考えたものだと思う。
力としても帰宅時に美沙が部屋から出てこなかったら異常であるとわかりやすいので助かっていた。
「ただいま、美沙。何か嬉しそうだね。」
「欲しかった本をやっとゲット。」
「へえ、良かったね。何買ったの。」
美沙はあらかじめ手に持っていたらしく、これと力に見せる。
「えーと、」
力は若干困惑する。
「デジタル素材集ってこれ何だい。」
「パソで絵を描く時使える模様とか背景画像とかが集められてる奴。」
美沙はしれっと言うが力はちょっと待ちなと呟く。聞いているのは本の概要ではない。
「お前そんなの買って何企んでるの。」
「人聞き悪い。」
「いや、お前の場合企んでるに近いから。」
「絵ぇ描くのはいつもやん。」
「そうだけどわざわざ素材集買うなんて何かあるだろ。」
「何もないもん。可愛いのがいっぱいあったからついほしなっただけやもん。」
「じゃあこっち見て言おうか。」
もともと目をあまり合わさないが都合が悪くなるともっとあからさまになる義妹を見て力は言う。しかし普段力の言うことはほぼ聞くとされている美沙、今回は強情だった。