第23章 【飾りか枷か】
及川はしょぼーんという音が聞こえそうな顔をする。美沙はそれを見て言う。
「あまりアホな事ばっかり言うてたら貴方の声を勝手に音声素材にしてオンラインでばら撒きますよ。」
「なかなかマニアックそーな話だな、おい。」
「何何、そんなことできるのっ。」
「そんで何でおめーは前向きなんだっ、ボケぇっ。」
岩泉が突っ込むが美沙は聞かれてしまうとつい答える癖が発動する。
「とか言いつつ私はやり方知らんしやったことないけど、手間暇かけれて技術ある人なら出来るみたいです。」
「それって何に使うのさ。」
「面白がって更に聞くなっ、これ以上何に首突っ込む気だっ。」
「そらまー、音楽に合わせて歌声として合成するとか。」
「そっちも答えんなっ。」
「何それ面白そう。」
「私は出来るかどうか、人が配布したの使って歌わせるだけでも一苦労やのに。一から録音して原音設定がどうたらとか全くわからん。」
「若干手ェ出してんのかよっ、そんで専門用語やめろこらっ。」
食いつく及川、うっかり答える美沙、岩泉は突っ込みが追いつかない。やっとこさ話が一段落した頃には岩泉は息切れしていた。
「おい、お前。」
「はい。」
「兄貴はおめーのその濃い話にどう対応してんだ。」
「面白がってそのまま聞いてます。おまけに使えそうな内容やと作業の依頼が。あ、いや、むしろ命令。」
岩泉は首を傾げる。
「一体何をさせんだ。」
「主に動画編集と出来た映像のディスクへの書き込み。下手したら動画作成そのもの。」
「頼む奴も頼む奴なら受ける奴も受ける奴だぜ。」
「だって嫌や言うたら兄さん怖いもんっ。」
岩泉はえーと、と考え込んだ。
「出来んとは言わさへんと笑顔で威圧しはるので。」
「あの顔で。」
「あの顔で。むしろあの顔やから余計怖い。」
「ほお、見た目によんねーもんだな。」
「何せすぐ暴走する4番と5番を止めはるんで。」
「ねーねー」
ほったらかされたのが気に入らなかったらしき及川が口を挟んできた。
その彼の視線は美沙の手首にむけられている。
「美沙ちゃん、そのブレスレットどうしたの。」
「ああこれ。兄さんにもろたんです。」
「誕生日だったの。」
「いやそれが」
美沙はうかうかと事の次第を話した。