第21章 【加速する過保護】
烏養に美沙の存在がわかったのは休憩時間のことだ。原因は日向である。
「縁下さん、」
「なんだい、日向。」
「美沙がめっちゃ静かですけど息してますか。」
「こらこら。あいつは喋ると賑やかだけど黙ってられない訳じゃないよ。」
日向は本当に、と首を傾げ上を見上げる。と、こいつは何を思ったのかダダダッと美沙のいる方向へダッシュし、
「ちょっ日向っ。」
力の制止も聞かずビョーンと飛んで美沙が座っている近くの柵に捕まった。
「おーい、美沙ーっ。」
いきなり日向に飛んでこられた美沙はたまったもんではない。
「くぉら日向っ、あんた何考えてんねんっ、いきなり飛びつく人があるかいなっ。」
関西弁でまくしたててしまった為、
「どぅわあっ。」
烏養に見つかった。
「な、何だあいつ。」
「ああっすみません、烏養君。忘れてました、僕が許可したんです。」
「ああん。」
怪訝な顔をする烏養。
「んで、誰だあいつ。」
「あ、俺の妹です。」
力がおずおずと言った。
「妹っ。」
烏養の足元が不安定になる。ずっこけかけたのだ。
「お前あんな妹いたのか。」
「出来たというか。」
「今何つった。」
「別に。」
自らポロっと聞き捨てならないことを漏らしておいて力はさらりと流した。
「今日両親家にいなくてあいつだけ置いとけなくて、先生に無理言ったんです。」
力は言う。主な理由はともかく両親がいないのは本当だ。最近母も含めてちょくちょく夜遅くに戻ってくるのが気になるところであるが。
「置いとけなかったっておま、あいついくつだよ。ちっせえガキじゃあるめーし。」
呆れたように言いながら烏養が目をやると美沙が会釈する。
「15です。あの、その」
「まーさっきみたいなことがねえ限り邪魔にはなんねーみたいだからいいけどよ。」
烏養は言う。
「先生、頼むぜ。あんたがそういうこと忘れちゃ世話ねえわ。」
「ほんとすみません。とりあえず日向くん、降りなさい。」
力はこそっと安堵のため息をついた。
結局練習の間中、美沙は二階の通路にすっこんだまま大人しくしており、たまに日向、谷地、西谷あたりに声をかけられては関西弁で返していた。