第56章 【一旦の終わりと広がる物語】
「おめーはまた何やってんだ、クソ川。」
岩泉に黙れと言われ蚊帳の外にやられていた及川は隣に座っていた美沙にちょっかいをかけて遊んでいた。美沙のガジェットケースからタッチペンをちょろまかし、ほれほれ取ってみ、ってな事をしていたのである。
美沙が叫んだりせず静かな攻防が繰り広げられていたため力は真後ろで行われていたことに気づいていなかった。
「岩ちゃん見て見てー、美沙ちゃん面白いよー。手丸めてさ、ちゃいちゃいって、烏野なのに猫ですか。」
「にゃんこちゃうもんっ。とにかく返して、タッチペンて買(こ)うたら高いんやからっ。」
「誰がうまいこと言えといった、このボケ川っ。とっとと返してやれっ。」
「えー。」
「そもそもさっきから俺の側でうちの美沙にちょっかいをかけるなんて何のおつもりなんです。美沙お前もだよ、及川さんにわざわざ萌えポイントを教えなくていいから。」
「もー怖いなー。男の嫉妬はみっともないよ、おにーちゃん。」
「おめーが言うなっ。」
「兄さん、萌えポイントて何。」
「自覚のない子はうち帰ったらお仕置き。」
「何でっ。」
「わわわ、何なの、怪しー。」
「おめーの感性の方が怪しいわっ、もっぺん黙ってろっ。」
「痛いよ岩ちゃん、蹴らないでっ。」
「ほお、拳骨(げんこつ)の方がいいなら変えてやるぜ。」
「どのみち暴力じゃんっ。」
「言っとくが拒否権はねえからな。」
「何それ岩ちゃん横暴っ。」
「兄さん、どないしょう。」
「ほっときな、ほたえてるだけだから。」
「ほたえるって何。」
「クソ馬鹿及川っ、話題を一つに絞れっ。」
「ふざけて暴れてる、みたいな意味です。」
「美沙、律儀に解説しなくていいからね。」
「何なの、おにーちゃんまで関西弁使っちゃって。」
「合わせてやっただけです。」
「だからおめえら勝手に話広げて進めんなあああああっ。」
ボケる及川、律儀に返す美沙、日頃の反動故か止める気がない力、突っ込みが追いつかない岩泉、静かな公園にカオスな会話が繰り広げられた。
もし縁下兄妹のスマホに母からの遅い事を心配したメール(美沙曰く生存確認)が来なければこいつらはそのまま騒ぎを続行していたかもしれない。