第55章 【自分で決めた】
「私今まであんまりようない事が多(おお)うて、そこにばあちゃんが亡くなってゴチャゴチャあって、そしたら縁下さんちに行く事になって色んなことがガラッと変わって、何か人生もっぺんスタートしましたみたいな感じがあって薬丸やった自分から抜けたいって思ったんは確かにあった。」
ムキになって言い返す事はなく、悲劇ぶる訳でもなく淡々と、しかし真っ直ぐに語る美沙に月島もまた静かに問いを重ねる。
「縁下さんの事もあった訳。」
「あった。」
美沙はこれも正直に言った。
「初めて会(お)うた時からこの人の妹でおりたいって思ったから。くさい話やけど繋がってる感じでおりたかったんかも。」
今は妹以上の関係になってしまったがそこは流石に伏せる。
「何か素敵。」
谷地が呟き、月島は阿呆らしとため息をつく。
「そんなことしなくてもあの人はアンタを溺愛した気もするけどね。」
「あはは、それは俺も思う。」
「溺愛のとこは突っ込まへんの、山口。」
「だってねぇ。」
「うう、なんちゅーことや。」
「そ、それより、」
谷地が言った。
「美沙さん、それ自分で決めたんだよね。」
「せや。」
「それ本当なの。縁下さんに言われたとかじゃなくて。」
月島が疑わしげに言う。
「ホンマやで。そもそも兄さんがそんな阿呆な命令する訳ないやん。」
「へぇ、縁下さんの言う事は殆ど聞くからてっきりそうなのかと思った。」
美沙は腹を立てなかった。月島語はよくわからないがとりあえずちゃんと答えようと思った。仮に何マジレスしてんの、と言われても構わないとも思う。
「だってお父さん達からどっちか選んでええって言われたんやで。私が決めんかったら誰が決めるんよ。」
真っ直ぐ月島に目を合わせて美沙は言った。月島はたじろいだ様子を見せた。美沙の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかったのかもしれない。
「何か美沙さん格好いい。」
山口が呟く。
「いや普通やで。」
「いやいやいや、私もそこまではっきり言えるってすごいよーな気がする。」
谷地も若干興奮した様子で言った。美沙は何か兄さんにも似たよーな事言われた気がするとぼんやり考える。