第52章 【時に義理がたく無自覚で】
美沙はひたすら思ったままを打ち込んだ。しかし及川が返事をよこすまでにしばしタイムラグが生じる。向こうの通信環境が良くないのかあるいは寝落ちしたのかと美沙は思ったがスマホが振動した。
"困ったなぁ"
"?"
"君ら兄妹まとめて欲しいかも"
美沙は驚きの絵文字を6つほど並べて1行で送信し、更に追加送信した。
"ア ン タ は ア ホ か"
"えーいーじゃん、癒し系兄妹"
"私らはペットとちゃう!"
"ちぇーっ"
"兄さんが撃ちにきても知らんから"
"何それこわーいwww"
"兄さんやったらP99かな"
"なんの話?"
"さあ?"
美沙はとぼけ、今回に限り及川はそれ以上追求しなかった。
"それより教えてくれてありがとね じゃあまた"
及川は話を締める。
"はい、ありがとうございます"
美沙は返信し、メッセージのやりとりは止まった。終わってから美沙はハアアアと大きく息をつき、ベッドに転がった。今になって心臓が早鐘を打っていた。
さて、美沙にまったく他意はなかったがこの事は岩泉に波及した。
「岩ちゃぁぁぁぁん、俺フられたー。」
及川が夜中に岩泉の携帯電話へ音声通話をかけたのである。
「ああん、うるせぇよ、元からわかってたことだろうが。」
「何普通に状況理解してんのさ、岩ちゃんの癖にっ。」
「てめえ、今すぐそっち行ってぶっとばすぞ。それはともかく今お前がお熱上げてんのが誰かを考えりゃすぐわかるわ、ボケ。」
岩泉はひとしきり及川を罵倒してから落ち着いて言った。
「やっぱりやっちまったんだな、あの兄妹。」
「うん、美沙ちゃんが教えてくれた。」
「相変わらず無駄に律儀な奴だ。」
「そこがいいんだよ。」
「うるせー、フられたくせに。」
「傷心の人になんてことをっ。」
「よく言うわ。」
岩泉はケッと言いたげに呟く。
「どーせ懲りずに引き続きちょっかいかける気だろうが。」
「ちょっとお、人聞きの悪い事言わないでよね。いーじゃん、別にお喋りするくらい。」
及川は膨れっ面をしているのがよくわかる声で言う。
「それでお前は満足なのかよ。」
岩泉は問うた。
「そりゃ不満足だよ。」
及川は正直に言った。