第51章 【ザリガニ釣り】
そうして後日、1年5組に2年3組の西谷夕が突撃してきた。
「えっとぉ。」
西谷に呼ばれた美沙は戸惑っていた。
「西谷先輩、一体どないしはったんですか。」
「ザリガニ釣り行かねーかっ。」
美沙の体がぐらっと片方に傾(かし)いだ。ずっこけそうになったのである。それだけではなく会話が聞こえていた5組の連中がクスクス笑ったり今何だってと囁いたりしている。
「今なんて言わはった。」
「だからザリ」
「うわあああああああああっ。」
堂々と言う西谷に流石の美沙も敬語を忘れて慌てた。叫びながら美沙は西谷の制服の袖を引っ張り、大急ぎで一旦教室の外に走り出た。美沙の非力さを考えると相当なことをしたと言えるだろう。
「もうっ、いきなり何阿呆な事言うてはるんですかっ。」
人目のない特別教室が集まる棟の廊下で美沙は早速文句を言った。
「何でだよ、いーじゃねーか。」
西谷は本気でわかっていない。半分ボケ呼ばわりされる自分にすらわかるその鈍感さに美沙はその兄がするように頭を抱えた。
「ザリガニ釣りて小学生ですか、先輩。」
「翔陽も来るぞっ。」
「ますますそれっぽいやないの。」
「何か言ったか。」
「いや別に。ほんで何故に私。」
「お前たまには外に出たほーがいいと思ってよっ。それに野郎ばっかてのもあれだし知ってる女子で乗ってくれそうなのお前しか思いつかなかったっ。」
「それ私が明らか変な子って事になるよーな。ちゃうとは言わんけど。」
「力は誘っていいっつったぞ。」
「兄さんもなんちゅーこと言うたんやっ。」
これはひどい。自分の知らない所で話がつけられてしまっている。後で義兄に文句を言わねばなるまい。
「だけどよ、美沙が来るなら力も来るって。」
「ちょ、もう、どゆことなん。」
訳が分からなくなった美沙は目眩すら覚える。
「俺と翔陽とお前だけじゃ心配だから付き添うって。」
「保護者かっ。」
西谷はん、と本気で首を傾げた。
「力はお前の保護者じゃねーのか。」
「言うんやなかった。」
美沙は呟くが裏で保護者云々どころの騒ぎではなくなっていることは西谷にも内緒である。