第46章 【サボる兄妹】
保健の先生は兄妹が揃ってやってきたことに驚いたようだが妹のボロボロの様子で察したのか今回は見逃すと言ってくれた。早速力は美沙をベッドに寝かし、自分は傍に座る。
「兄さん。」
「もういいよ、美沙。自分を責めるのはやめな。それにあれでも我慢した方じゃないのか。」
「何で。」
目は天井に向けたまま美沙が尋ねる。
「使おうとしてたのが利き手じゃなかった、手もグーじゃなくてあれ何だっけ、掌底(しょうてい)って奴だった、何より俺がやめろって言ったらすぐ止まった。」
力はここで一呼吸置いた。
「利き手でグーじゃ自分もダメージでかかったろうし、まだ俺の声が聞こえるくらいの冷静さは残ってたってことだろうから。」
もっとも掌底打ちだって当たればダメージはけっして小さくないしそもそもこいつは何で掌底打ちなんて知ってるんだろうとも思うわけだが。
「せやけど成田先輩達にも手間かけさせた。せっかく止めようとしてくれはったのに、部活の方で何かあったら私。」
「今はそれ以上考えるのやめな。ちょっとだけでも寝とくといいよ。」
力は言って義妹の頭を撫でてやる。
「我慢できひんかった。」
美沙は呟いた。
「兄さんの事言うたのも、他の人の事も言うたのも。」
「さっきも言ってたね。わかってるよ、お前はそういう奴だって。」
ここで保健の先生がお手洗いに行ってくる、と言って席を立った。
「最高だよ、お前。」
振り返って保健の先生が完全に出て行くのを確認してから力は言って自分が寝てろと言ったくせに義妹をやや無理矢理に抱き起こした。
「本当に最高。」
義妹は多分目を丸くしているだろう。しかし力は他に言いようがなかった。自分がうっかり美沙に入れ込んだせいでいらないことを言われたというのに義兄を一切責めず、それどころか仲間が侮辱された事にまで怒った。入れ込んでしまった力に対して兄さんのせいだと言ったって良かったはずだ。しかしこいつはそうはせず、寧ろ我慢できなかった自分も責めている。他所は知らないがここまでしてくれる奴が早々いるとは力には思えない、最高ではないか。