第42章 【弁慶の七つ道具】
山口が感心したところで一方力は思わず、あ、と声を上げていた。
「しまった、スマホの電池ヤバくなってる。」
力にしては珍しいミスだ。
「誰か充電器かバッテリーパック持ってるかい。」
力は尋ねるが生憎この場には持ち合わせている奴がおらず、困ったなと力は呟いた。これでは今日は図書室にいる義妹に連絡が取れない。
「あの、」
日向が言った。
「美沙、呼びますか。」
言う日向を力以下、その場にいた野郎共全員が一斉に見つめた。
図書室にいた美沙は義兄にメッセージアプリで呼ばれ、バタバタと男子排球部の部室にやってきた。
「どないなっとんの。」
美沙はびっくりして言った。
「日向と影山の次は兄さんて。」
「ごめんよ。」
美沙はいやええけど、と呟き鞄からごついバッテリーパックを取り出して慣れた手つきで力のスマホにマイクロUSBの端子が付いたケーブルを繋ぐ。
「はい、充電始まったで。兄さんのスマホやったら練習終わる頃にはフル充電されてると思う。」
「ホントお前がいて助かったよ、美沙。おばあさんはうまいこと言ったもんだな、弁慶の七つ道具って。」
「ばあちゃんは厳しい癖にポロッと面白い事いいよる人やったから。」
「お前と一緒か。」
「ちょ、兄さん。」
「Blood is thicker than water.」
「いや、確かに血は水よりも濃いとは言うけど何でいきなり英語なんっ。」
「お前ならわかるだろ。」
「もー、すぐおちょくって。知らん知らん。そんなん言うて今度電池困っても貸したらへんもん。」
美沙はぷうっと膨れたが生憎力には全くこたえなかった。
「成田ー、またやってんぞ。」
後からやってきた木下が義妹の頭を撫でている力を見てコソッと言った。
「田中とか西谷なら迷わず実力行使だけど縁下だからなぁ。」
成田は呟いた。
「いや、やっぱり放っておこう。仮に今縁下の上に病院建ててもどうせ病院が逃げるし。」
「むしろ病院逃げてー、か。」
力は途中で木下と成田に無茶苦茶を言われていることに気づいたが否定しづらい所があったので聞こえなかったふりをするしかなかった。
次章に続く