第37章 【こだわり】
とある日の夜、美沙のスマホが振動した。テキストメッセージではない音声通話の着信、谷地とですらめったに音声で通話しない美沙には珍しい。誰かと思えば
「あう、及川さんや。」
美沙は思わず部屋の中をキョロキョロして義兄の気配がないか探る。今は大丈夫そうだと思い、通話ボタンをタップした。
「はい、縁下です。」
「ヤッホー、及川さんだよ。てか美沙ちゃん、かったーい。」
「音声通話慣れてへんもんで。」
「あはは、顔見えてなくても恥ずかしがり屋なんだね。」
「ほっといたってください。」
「それはそーと、動画ありがとう。お兄ちゃんに届けてもらったよ。」
美沙はあわあわした。そういえば先日義兄が影山と青葉城西へ行ってついでに届けたという話は聞いていたがまさか音声通話で礼を言われるとは思ってなかったのだ。
「中身がお気に召したらええんですけど。」
「何言ってんのー、美沙ちゃんが作ったってだけで嬉しいよ。それに凄いねー、元にした試合の映像どこから手に入れたの。」
「えーと、コーチの人が研究用に持ってはった奴を兄さんが自分も見たいという口実で借りてきてくれました。」
「あはは、兄妹揃ってやっるー。」
礼を言われた部分は嬉しいが美沙は反応に困り、うーんとと間抜けなことしか言えない。
「いやホント、編集上手だったよ。あ、シーンの間に入ってるボールの絵はどうしたの。」
「図形描くフリーソフトで作りました。ソフト自体初めてつこたんであんな簡単なんでも作るの手間取りましたけど。」
及川はそうなんだとクスクス笑い、
「そだ、聞きたいことがあるんだけど。」
「はい。」
美沙は何やろと身構える。
「美沙ちゃんさ、動画作って上げてるじゃない。でも悪いけどあんま見てる人いないよね。何で作るの。」
美沙は例によって思ったままを答えた。