第36章 【義兄の突撃】
力は後で知ったが、次の日の昼休み、屋上にて義妹と後輩がこんな話をしていた。
「あ、影山。」
「谷地さんからここで飯食っているって聞いた。」
「わざわざ聞いてやってくるて、どないしたん。」
美沙は弁当をもぐもぐしながら尋ねる。
「聞きてーことが。」
「うん。」
「その、う、」
物凄く言いづらそうにする影山に美沙は辛抱強く質問が出てくるのを待つ。
「お前、縁下さんの事どう思ってる。」
散々迷ったらしき影山の質問は直球だった。
「大事な兄さんやと思てるよ。せやから出来るだけあの人が悲しむ事はしたないけどどうもうまく行ってへん時が多い気ぃする。」
「だからあの人の言う事を聞くのか。」
「出来る範囲で。」
「離れたくないからか。」
「むしろ捨てられたくないからかもしれへん。」
影山がここで息を吐き、意を決したように言った。
「お前、ありえねーけど万が一縁下さんに死ねって言われたらどうすんだ。」
「流石に断る。」
美沙は答えてこう続けた。
「あの人がもし死ね言うた時は私が余程のことをした時や。」
影山の目が見開かれ、美沙はなんか変なことを言ったかと不安になる。
「兄妹なだけあって似てるんだな。」
「何言うてるん、私らは」
「俺は」
言いかける美沙を影山が遮る。
「お前と縁下さんとは全然似てないって思ってた。本当の兄妹じゃなくて顔も言葉も得意な事もちげーから当たり前だとも思ってた。でも今思った。縁下さんとお前はそっくりだ。」
「ごめん、影山。今ひとつわからん。」
美沙は正直に言い、影山は怒らなかった。
「お前も縁下さんもお互いが大事で、相手に拒否られる時はきっと自分のせいだって思ってる。」
「兄さんが。」
「お前が離れる時はきっと自分が余程の事した時だって。」
今度は美沙が目を見開く番だった。
「俺、いきなり妹が出来たとか行くとこなくて他所の子になったとかないからよくわかんねーけど、何か縁下さんとお前はそのそっくりなとこがあってそんでお互い離れられねーのかなって。」
美沙は例によってもともとあまり合わせていない視線をさらに逸らした。