第32章 【劣化版】
さて、その日1日は廊下を歩くたびにチラチラ見られっぱなしだった。肘や膝には湿布やガーゼ、おまけにおでこの絆創膏がとりわけ目立つからだろう。隠しきれるもんではないと開き直ってる感も周囲には奇異に映るらしい。
あれ誰だ何であんなとこに絆創膏貼ってんだ、と通りすがりにコソコソ言う奴が多い。しまいめには、他所のクラスの知らない男子にまでおいお前喧嘩したのかとからかい気味に言われた。
「してない、誰かに階段から落とされた。」
要らぬ誤解はごめんなので美沙は標準語ではっきりと言った。それがまた面白いのか相手は手を叩いて笑い出し、何故か名前を聞いてきた。嫌な予感しかしない。聞こえなかったふりをして歩き出そうとすると腕を掴まれる。西谷や及川に触れられるのとは全然違うとてつもない不快感が走った。
「やめろ。」
思わず相手の手を振り払った。
「触らないでくれ。」
そこまでやらなくてもと相手が抗議し美沙がやはり去ろうとすると通りすがりがいらないことを言っていった。おい縁下これ以上もめんなよと。
話していた相手はまずいことに縁下姓に聞き覚えがあったらしい。
「今何て言った。」
ぼそりと言われた言葉に美沙は静かにしかし怒りを込めて言った。
「劣化縁下って何だ。」
鼻で笑われた。曰く、兄は優等生なのに妹は見た目地味なくせに何かにつけて悪目立ちする問題児でとても縁下とは思えない劣化版だと言うのだ。
看過出来ない内容だったので美沙は言った相手に詰め寄った。
「理屈が通らないな、問題児って何だ。じゃあ人目がないのいいことに狙って階段から落としてきた奴は問題がない訳か。」
言われた相手はひるむ。
「ない方がいいけど、君がもし同じ目にあった時今と同じことを言えるのか見ものだな。」
相手は返す言葉に詰まったのだろう、マジギレとかないわと自分がやらかしておいて去っていった。
「阿呆くさい。」
美沙は呟いてまた廊下を進んでいった。
美沙は気づいていなかったがその様子を月島、山口、日向そして影山の4人が見ていた。