第6章 ”オカミさん”
加州はズボンのポケットから、赤い紐が付けられたアンティーク調の鍵を取り出す。
『昨日は私が強制帰還させましたが、本来はこの鍵を使います。差し込み、回す動作をすれば、扉が出てきます。ただ、使う際気を付けて下さい。要らないモノまで本丸に来ますよ。名前は敢えて言いませんが、別に貴方が直接殺したくなければ、使うのも”手”ですよ。もう貴方の物です、好きに使って下さって構いません。』
手の中のそれを見ながら、ここに来る前に話したこんのすけの言葉を思い出す。抑揚がなく、淡々と並べられる言葉に嫌な汗を掻く羽目になった。
(誰を?殺すって馬鹿じゃないの?)
「加州?」
「あ、ああ。ごめん、考え事してた。」
今剣が加州の上着の袖を引っ張った事で、意識が戻って来れた。笑顔を向けて、今剣の頭を撫でる。
撫でる手が気持ち良いのか、目を細めて味わっている。
「さーて、今度こそ帰るぞ!」
「おー!」
こんのすけに言われた動作を実行に移す。
二人の目の前に、空間が切り開かれ扉が作られる。その時の風の勢いが強く、顔を腕で覆い隠す。
「とびら…!」
興奮気味に先に扉に駆け込んで行く今剣。その姿を加州は笑顔を浮かばせて見ていた。
(戻ったら、綺麗にしてもらわないとね。)
後ろを追う様に歩き始めたその時、聞いた事のない少年の声が耳に届いた。
「あのーー」
★★★
指示を出した後、ウチは横になった。
「何あれ…。」
画面が消える前に見た加州の顔。所謂”ゲス顔”って言うのかな?現実で見るとは思わなかった。
それよりも、あの表情が背筋を凍りつかせたように、ヒヤッさせる。怖い、恐怖でしかない。
両腕で顔を覆ていれば、意識が薄くなる。
〘ーそれが君の為になるなら…。〙
クラッとした意識に、何かが頭の中で映る。
鋭く銀色に輝く刃がウチの首元に強く当てられて、一筋に赤色の線が生まれてる。目の前の刃を向けた当事者は、見覚えのあるものだった。
冷めた赤い目、赤い爪、口元の黒子、それらで誰なのか分かる。
向けられていたウチは笑ってた。刃を突きつけられてるのに、笑ってる。
目の前の刃物は表情を変えず無表情に、刀を振り上げるー。
これって、首切られるんじゃ…。その光景に強くこれでもかという程、目を瞑る。首に知らない痛みが走る。
覆った腕が濡れる感触がした。
