第5章 今剣 そして、二度目の出陣
その姿は、知っている時の姿とは大分変ってしまっているが、加州にとっては認識するのは容易かった。あの整っている顔立ち、低くよく聞いた怒声。紛れもないーー
(土方…歳三…。)
その姿、何もかもが加州の中に眠った記憶を呼び覚ましていく。当然、加州の言う”あの人”の事も。
【…しゅ……加州!!聞こえてる?】
インカムから千隼の声が聞こえ、呼び覚まされた思い出に埋もれていた意識が、蘇る。
思いっきり大きな彼女の声に、耳からインカムを外す。鼓膜が破れそうだ。
「煩い。聞こえてる。」
【聞こえてるなら、反応して!】
彼女は画面から動かなくなった加州の事を心配したのだろう。【無事ならいいけど…。色々怖いよ…。】声音がそう伝える。
【土方歳三さん…いる?】
「…いるけど。それが?」
口ごもる千隼。
【いや、何でも無い。兎に角、敵には気を付けて。】
付け直したインカムからそんな台詞が発せられる。今剣は何の事と首を傾げる。
「…分かってる。」
冷たく、一言言ってからインカムの電源を落とした。
関係無いと言えば、無いと言える。だが、関係が有ると言えば有るとも言える。加州の使われた”刃生”はそういうのだ。
「加州はあのひとと、なにかあったんですか?」
「別に、何も無いよ。」
「なにもないなら、いってもいいじゃないですか!」
加州と同じ様に、インカムの電源を切った今剣が大きな声で話す。今剣の声を制しながら、加州は言う。
「駄目なんだよ…。俺達は歴史に存在したけど、今は異端で、歴史を変える要因になる。」
眉間に皺を寄せ、加州を見上げる今剣。どうやら言っている事が理解出来ないらしい。
それもしょうがない。平安に作られたとしても、見た目も中身も幼い子供同然だから。
「あそこにいる人は、俺を使ってた人の仲間なんだ。使ってた人は、この時にはもういないだろうけど…。」
自然と口角が上がる。目を瞑れば、あの羽織の色が浮かぶ。今剣はまた首を傾げる。
(っていうか、まさかアイツの口から、土方さんの名が出るとは…。侮ってたな。)
初対面の出来事から千隼にいい印象を抱いて無かった加州は感心した。敵が襲撃して来るのは名の知れた戦場だけだと聞いていた。
知らない人は知らないから、勝手に知らないと決めつけていたらしい。