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審神者と刀剣と桜

第3章 初日終了


 それから、若干黒い物体と化した鶏肉の照り焼きを口へ運ぶ。どんな表情をするのかなと窺ったが、特に表情が変わる事は無い。
 美味しいって言葉も、不味いって言葉もない。

「頂きます。」

 ウチも夕飯を食べる事にした。箸で肉を細かく裂いてから、一口、口に入れる。
 …苦い…。焦げた味が口の中に広がって、顔も自然と、苦い物を食べた時のモノになる。

「苦い…。」

 遂には、口に出していた。だって、苦い物は苦い。自業自得だけど…。
 そんな事もお構いなしに、目の前に座っている彼は黙々と食べる。うん、人間になって初めての食べ物がコレなのは、申し訳なくなってくる。
 それより、さっきの質問の返答。

「あの…さっきの事なんですけど!」

 自分から喋れる雰囲気じゃないからか、声が上ずって、しかも大声になって発せられた。
 今、この時まで黙々と目線を合わせず食べていた加州清光の赤い目と合う。動かしていた手も止まる。

「…さっきの事?」
「あ、えっと…貴方の事を捨てるとかどうとか質問したじゃないですか。」

 ああ…。宙に止めていた箸を持った右手を、彼は一旦下ろす。でも、次に出た言葉は緊張とかどっかへ飛ばす程の威力があった。

「あれは、忘れてよ。」

 停止した手を再び動かし始めながら、抑揚なく言う。その言葉を聞いて、はあ?と声が出てしまった。
 だって、頑張って、振り絞って出した言葉を忘れてって…。

「兎に角、忘れーー、」
「捨てません!貴方の事は捨てません。これが、私の答えです。」

 念を押すかのようにさっきと同じ言葉を紡ごうとしたのを、無理やり被せた。卓袱台に手を押し付けながら立って、彼を見下ろす。
 意外と音が出ていたらしくて、彼は肩を飛び上がらせながら猫目を丸くしてウチを見上げる。

「…そうは言ってても、他の刀が来たら捨てるでしょ?」

 気を取り戻したのか、やや低く新たな質問を投げて来る。

「捨てない。貴方の事は、使う。何があっても。」
「そう言ってるのも、壊れろって言った罪滅ぼし?髪を切っただけじゃ意味ないから。」

 そう思ってるんだ…当たり前か…。一気に、熱くなっていた体が温度を失っていく。

「じゃあ、何でそんな質問をしたんですか?そんな事を言ってはなっから信じる気ないですよね。」

 ウチの顔から表情が消えて、半目で加州清光を見た。
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