第2章 加州清光
「いいよ、手当なんて。どうせボロボロじゃあ愛されないし。それに--、」
ウチから一度そらした顔を、こちらに向ける。赤い目がまた合う。
「新しい主は壊れて欲しいみたいだし。」
冷たい視線がウチを捉えて、捕まえる。言葉とそれに、深く抉られて痛い。
「ごめんなさい…。壊れろなんて言って、ごめんなさい。」
目の前で突然頭を下げられて、彼は言葉を失っていた。次の瞬間、乾いた笑いが部屋に響く。
「ははっ、キレた次は謝るの?自分勝手だよね。」
そんなの重々承知だ。こんのすけにも言われた。
「そうだね。自分勝手です。」
「じゃあ--、」
「それでも、謝んなきゃいけないじゃないですか。自分が悪いから。自分勝手でも…。」
鼻がつーんと痛くなる。頬に何かが垂れている感覚がした。着ている服がぽつぽつと色が変わる。
泣いてる。そこで自分が泣いてる事に気付いた。
「泣くなんて、卑怯だよね。泣けば許してくれるなんて、」
思ってんの?容赦のない冷めた言葉が投げられる。
早く、早く止まってよ。流れる涙を止めるために、目が痛くなるほど強く擦る。
「だったら、何をすれば許してくれるんですか?」
「え…。」
予想外だったのか、驚いた声が聞こえた。そんなの聞こえない振りをして、手入室を後にした。
向かったのは、台所。シンクの下の収納の中にある包丁を手にして、戻る。何故あるのか、初めに説明された時に、聞いたからだ。
「な、何するつもりなの!?」
戻って来たウチの手の中にある物を見て、まだ手当していない体を動かし、こちらに来る。
「馬鹿な真似は止めろ!!」
そんな台詞を聞き流して、包丁を構える。といっても、構えた先は、一つに縛った髪。止めゴムの上ぐらいになるように刃をあて、髪を切る。
「こんなんで、許して下さいなんて言いません。これだけじゃ足りない事をしたから…。でも信じて下さい。」
切り取った髪の毛の束を床に落とす。細かい髪の毛もパラパラ落ちていく。
この場にいる、加州清光も、こんのすけも黙ったまま。こんな行動を起こしたんだら、きっと呆れているのか、驚いてるんだろう。
「壊れて欲しいなんて思っていません。言い訳に聞こえるけど…。」
酷く声が震えて、また鼻がツンとする。目の前が今、歪んでいる。