第9章 沖田総司の愛刀
一斉に来た冷たい視線に気弱な五虎退は、眼を潤ませて涙を滲ませていた。隣や周りにいた兄弟は五虎退の頭を撫でた。
「本当に、ガキだね。アイツが言っている通り。」
呆れを含んだ声音で吐き捨てる。言った本刀である大和守は座っていた椅子から立ち上がり、仲間と一緒に扉に近づいた。
「いつかまた、手合わせする事になったら宜しくね。」
相手の刀剣男士は扉を開け、医務室から出て行った。四振り全刀が出た際、入れ替わるように千隼が入ってきた。
「主さん!」
「主君。」
短刀達は現れた千隼に近づく。彼女はベットに寝ていた仲間を見てから、「本丸に帰ろうか。」と言った。
その顔はさっきまで見せていた落ち込んだ表情ではなかった。
★★★
外は真っ暗で、本丸の中も真っ暗だった。明かりを灯して中に入る。
帰りにご飯を食べ、そのまま帰路に立った。でも、何も話さなかった。負けた気まずさ、ウチにとっては加州とのいざこざにムカついていた。
「お風呂洗ってきます。」
「有難うございます。」
堀川君は玄関で靴を脱いだら、お風呂場へ走っていった。ウチは一息ついて、加州を呼び止めた。
「何?」
凄く嫌な顔をされた。それがウチの逆鱗に触れた。
ああ、また言ってしまいそうだ、酷い事。でも、不思議と冷静だった。
ーー大丈夫。
演練相手の加州が何故あんな事を知っているのか不思議と思いつつも、何処か安心できた。
「ただ、呼び止めただけなのに何その言い方!」
眉間にしわを寄せて、声を少し荒げながら言った。
「嫌な奴に呼び止められてさ、嫌な顔するにきまってるじゃん。それに、お前の所為で俺、ムカついてるの!主の癖してそんな事もわからないの?」
鼻で笑いながらそんな事を吐き捨てる。本当にムカつくと思いながらも、ガキだって心の中で笑っていた。
「謝ろうと考えていたけど、止めた。だって、お前が言う嫌な奴が謝ったって、嫌だもんね~。そうでしょ?」
暫く黙ってから、ウチは口を開いた。自然と口から皮肉が零れてくる。
「沖田総司ーー諸説あるけど、二十代で肺結核で亡くなったとされる、新選組一番隊隊長。天然理心流剣術を学び、芹沢鴨暗殺や池田屋事件に関わった。新選組最後の戦い、鳥羽・伏見の戦いでは結核の為参加しなかった。…名前さえ言って下されば、分かりますよ。」