第9章 沖田総司の愛刀
和泉守さんの口から、何回目かの加州の名前が出てきた瞬間だった。
「おまっ!?あぶねーだろ!!?」
ウチの左隣に座っていた和泉守さんの更に左側ーー和泉守さんの左側、頬すれすれに、木刀が大きな音を立てて突き刺さった。
一瞬、何が起こったのか、木刀を投げて突き刺した本人以外は頭が追い付かなかった。
「ごめん。手が滑った。」
「手が滑っただけで、ここまでになんねーだろ?思いっきりコレ、突き刺さってるじゃねーか!?」
一つ間違っていたら、自分に当たっていたかもしれないそれに、さっきまで掻いていた汗とは意味が違う汗が流れた顔で、木刀の犯人である加州に詰め寄った。
加州はそれをさらりとかわして、突き刺さったそれを片手で引き抜いた。
「『ごめん。』って、謝ったじゃん。」
「そうじゃねーよ!これが千隼に当たったら、どうするんだよ!?」
こんな事件が起これば、その場にいる刀達は動きを止めるでしょ。実際、和泉守さんと加州のやり取りに全員が注目している。
「兼さん、清光も何してるの?」
「コイツがーー、」
「別に、何もないよ。それよりも、お前は自分の部屋に戻ったら?」
堀川君が二振りの元に行くが、加州は特に表情も言葉も変わらず、こっちに顔を向ける。
「さっきみたいな事が起こる事が多いし、ここにいられるとさ、はっきり言って、邪魔。」
「清光!!」
道場に来たのは、興味があったから。毎日、なにかしら手合わせしているから、どんな事をしているのか知りたかったから。
でも、真剣に手合わせしている彼等にとってはウチのその行動は、只の障害物、邪魔なだけ。
ですよね。それでも、道場に足を踏み入れた直後に言われなかった事には驚いている。
「邪魔して、ごめん。」
それだけ言って、道場を後にした。
道場から離れていく毎に、彼等の会話が遠のいていく。最終的には、何かを話している位にしか分からなくなった。
ウチは大人しく、自分の部屋で横になっている事にした。
★★★
千隼が去った後の道場内、なんとも居心地の悪い雰囲気がその場にいる刀達を包んだ。
「はあ……。何で、兼さんに向かって木刀を投げたの?」
「投げてない。」
「いや、どう考えたって、投げていなきゃ無理だろ。」
堀川は事の当事者となった二振りを正座させて、その正面に腕を組み立つ。