第1章 記憶
僕が覚えている一番古い記憶は、
母親の叫び声だった。
それは、母が胸に杭を撃たれた苦しみの声だ
僕は気が付いた時から、吸血鬼だった。
親が吸血鬼だから、完全なる吸血鬼だと思う。
でも、あの母の叫び声が耳から離れず
僕は、誰よりも弱い吸血鬼なのだ...
母を殺され、
僕は、自分の故郷を離れた....
一人、あてもなくさ迷った
しかし、吸血鬼は何処に行っても歓迎される
わけもなく
自分の命を守るために僕は必死だった
牙を剥くでもなく、ひたすら逃げることに...。
何年間も一人で、さ迷った...
疲れ果てた、僕が辿り着いたのは
誰も住んでいない大きな屋敷だった...
ある貴族が破産して、屋敷だけが残ったのだろう。
埃を被ってはいるが、
美しい絵画などが所々に飾られていた。
これは、マリアさまだろうか...。
丸山「...いつかは、僕も救われますか?」
返事が来るわけないが、話し掛けてみた。
マリアさまが母親に見えてくる。
優しかった母に...。
僕は一人、
この屋敷で息を潜めて孤独に震えながら
生きる事にした。
人の血など吸えない僕は、動物の血で生き延びていた。
なんて情けない吸血鬼なんだろう
他の吸血鬼が見たら、何て言うだろう
きっと、恥さらしと言われるだろうか?
でも、そんな僕を、マリアさまだけが癒してくれた。
人の血を吸って罪を重ねるぐらいなら...
母の叫び声がまた僕を苦しめる...
昔の記憶を夢に見て、毎晩毎晩飛び起きる
息を切らし、呼吸を調える..
僕は何の為に生きている?
何の為に血を吸って生きている?
母の命すら奪った僕は...
ゆっくりと窓辺に立つと、もうすぐ夜になる
少し目がいたいけど、肌が焼ける程ではない
この景色は何度見ても、辛い.....
自分は忌み嫌われたモノだと確信してしまうからだ。
そこに、小さな泣き声が聞こえた...
こんな古ぼけた屋敷に?
僕は不思議に思い、庭を歩いてみた
小さい男の子が泣いていた。
でも、少しプライドが強い子なんだろう
寂しいくせに声を殺してないている
僕の、吸血鬼の耳だから聞こえたのだ
「どうしたの?こんな、ところで」
僕が声をかけると、その子は驚いた顔で僕を見た。