第46章 ゴトー
『ゴトー。好きよ』
「ありがとうございます。お嬢様」
黒いスーツに身を包んだ彼は深く腰を折り頭を下げる
少しでも大人の女性に近づくため苦く味も感じない珈琲を口に運ぶ
『貴方は?私のこと好き?』
「お嬢様はとても大切な方です」
彼はまた、その言葉で片付けるつもりだ。
短いスカートから覗く足を組み再びカップに口をつける
朝、母さんに言われたことがふと頭をかすめた
『ゴトー。私、今日婚約するの』
「そうですか。お嬢様と婚約される方ですから良い方なのでしょう」
『えぇ、そうでないと困るわ』
”ごちそうさま”
と、立ち上がり部屋を出て行く私の背に
”また、いらしてください”
なんて、言う彼。
『期待。しちゃうじゃない……』
廊下でつぶやいた言葉は誰の耳にも届かず響いて消えた
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『今も昔も』
「今も昔も」
『貴方だけを』
「貴女だけを」
『愛してる』
「愛しています」
H27.3.21