第20章 イルミ=ゾルディック《3》
多くの脂肪が体を包み
毛穴という毛穴から大粒の油
丸く、息の荒い顔が近づいてくる
「あぁ、やっと君を愛することができるんだね」
ニタァと効果音がつきそうなほどにやけたその顔はいつみても気色が悪い
「ねぇ、何してるの?」
凛とした涼しい声
目の端に入ったのは黒く艶やかな髪
「な!なんだ貴様っ!!」
『あぁ、イルミ。お仕事だよ』
頭をナイフでひとつき
一番力の入らない殺し方
彼は黒い髪をなびかせてこちらへ歩み寄る
「こんな奴相手にそんなに色気ふりまかないでよ」
どうやら必要以上にターゲットに近づいたことを怒っているようだ
それでも顔は相変わらず無表情なのだが
『この人お金持ちなんだよ?せっかくだからお気に入りになった方がいいでしょ?』
実際に多くの高級品を買ってもらったのだ
”なんでも頼めばもらえる”
それがわかると媚を売りたくもなる
崩された服を元に戻し自分の荷物をまとめる
「言ってくれたら買ってあげるけど?」
『そんなの悪いからいいよ』
まぁ、稼ぐことには稼げたしね
新しい依頼を確認するため、床に倒れた塊に買ってもらった最新機種の携帯を開く
「別に俺は気にしない」
『じゃあ依頼してよ。なんでもやるよ?お金次第でね』
一度言い出したらなかなか引かないのがイルミだ。
こうでも言えばとりあえず今日のところは諦めるだろう
一通り荷物をまとめ部屋を出るため扉に向かう
「わかった。依頼する」
その刹那背中から人独特の暖かさが染み渡る
「俺と付き合ってよ」
耳元で囁かれたその言葉に
少し心臓が高鳴ったなんて
『その依頼料はかなり高いよ?』
絶対に言わない
H27.2.17