第76章 フェイタン《10》
「。フィンが呼んでたね」
『………ん、ありがと。』
おそらく何度も私のことを呼んだのだろう
片手に握りつぶされたイヤホンは先程まで私の左耳にはまっていたものだ
あぁ、また新しいのを買わなくちゃいけない
「お前それつけるのやめるね。ワタシが呼んでも聞こえないの腹立つよ」
『え、やだ…っ!痛い痛い痛い!!!』
頭に乗せられた手に力が込められ頭痛が襲う
少し手加減をしてもらいたい
いつの間にか下におりてきた両手は私の腰にまきつく
『……あれだね。フェイってツンデレだね』
「別にデレてなんかないね」
『あはは。今だってフィンのとこ行って欲しくないからこんなことしてるんでしょ?』
いつもならすぐにでも言い返す彼が背に頭をひっつけて離れない
予想外の出来事に軽くパニックになっていた私の腹部に鈍い痛み
「………フッ、お前太たな」
『んなっ!肉掴むな!!あと太ってない!!』
「ずと部屋で歌なんか聞いてるから太るね」
人を小馬鹿にしているような顔をされれば誰だって腹が立つだろう
私は今まさにその状態だ
『あー!もー!離してー!』
「嫌ね」
『フィン呼んでるんでしょ!?』
「あいつのとこなんて行く必要ないね」
『いや!あるよ!!』
精一杯の力で暴れる私と離すきのない彼
騒ぎ声が聞こえるアジト
私と彼の幸せな日常
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『もー、いいよ。疲れた。寝る』
一瞬で眠りに落ちる彼女に向け小さく呟く
「ぜたいにお前を離さないね」
H27.7.2