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✴︎HUNTER×HUNTER短編集

第66章 クロロ=ルシルフル《9》



『な…んで。なんでよ!!』


苛立ちを全てピアノにぶつける

できていく曲には私の感情が入っているのか荒立たしく落ち着かない音色


《「20歳までの命です」》



『っ!!いや!!いや!!いや!!』


医師の言葉が頭を回る

あと5年の命

そんなこと知りたくもなかった


『あぁ、、もう。。いや、、』


ひとしきり弾き終え鍵盤から手を離し頬を伝う涙をすくう

なんとなく目に入った月明かりに照らされ開け放たれた窓

その枠には赤い薔薇


ーーーーーーーーーーーーーーー


ーー♪ー♪ーーーー♪


いつもどおりに鍵盤に指をすべらせる

その日の感情によって音色は変わる

彼は静かにこの5年間私の音楽を聴いていた

何をするわけでもなくただただ聴いていた


『ねぇ、名前教えてもらってもいい?』


ゆらゆらと揺れていた影はぴたりと止まる

代わりに低く冷たい声が耳をくすぶる



「いつから気づいてた」

『5年前から』

「……そんなに前からか」


一歩、また一歩と窓へと近寄る

既に菌の巣窟と化した体はなかなか私の言うことを聞いてくれない


『私はいつも聴いてくれてありがとう。でも、それも今日まで最後にそれを伝えたかったの』

「最後?どういうことだ?」


彼が座っているだろう壁に座り込む

はじめはこの距離で息切れなんてしなかったのに

自身の終わり感じながら慎重に言葉を選ぶ


『私ね死ぬんだ。そういう病気なんだ』

「治らないのか?」

『残念ながら』

「………そうか」


悲しそうな声とともに窓から差し出された腕

その手には赤い薔薇の花


『ありがとう。。。。。』


目の前が暗くなり

うるさいぐらいの鼓動が小さくなっていくのがわかる

でも、この花は最後の贈り物

力を振り絞り手にした薔薇は刺があり痛かった


あぁ、美しいばかりではないこの世界のようだ

なんて悲劇のヒロイン気取りの私の人生は幕を閉じた

ーーーーーーーーーーーーーーー


「お前のことが好きだ。」


倒れ込む音に室内を除く

その中には息をしない女が1人

そっと細くなった体を抱きしめる


最後の言葉は届いたのだろうか



H27.6.9


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