第57章 クロロ=ルシルフル@GW企画
「これがタツノオトシゴが。たしかトゲウオ目ヨウジウオ科タツノオトシゴ属 Hippocampus に分類される魚の総称で。狭義にはその中の一種 Hippocampus coronatus の標準和名としても用いられる。およそ魚には見えない外見と、オスが育児嚢で卵を保護する繁殖形態が知られた分類群であったはずだ。」
隣ではかの有名な幻影旅団団長様が書かれていないことまでスラスラと話してくれる
魚一匹を見るために一体どれほどの時間をかけるつもりなのだろう
「ジャポンでの別名はウミウマだったか?ジャポンはお前の出身地だろ?」
『あー、うん。そうだよ。ウミウマであってるよ』
久々の休日。
楽しみにしていたデート。
それが魚の知恵を聞くだけの日になりそうな予感
そう思うと気分が重くなってしかたがない
「ため息をつくと幸せが逃げるらしいぞ」
『逃げられるのは困るな』
「楽しくないか?」
『………』
合間をあけず入れられた質問に思わず頷きそうになる
楽しくないだなんて言える訳が無いじゃないか
そんな私の考えをよみとったかのように"そうか"と呟いた彼は私の手をひく
『ちょっ……どこ行くの!』
「お前が喜ぶとこだ」
暗い人混みの中を引きずられるようにして通り過ぎる
どれくらい歩いただろういつの間にか周りに人がいなくなっていた
『え、、ここどこ?』
あたりを見回りしても黒、黒、黒
何一つ見当たらない
パンっと響く音ともにちらほらと何かが光りだす
「ミズクラゲ、アカクラゲ、ブルージェリー。まぁ、クラゲだな。お前は光るものが好きだろ?だから、世界中から集めてきた」
『………きれい』
点々と光るそれは夜空に浮かぶ星のようでその美しさに頬に笑みが浮かぶ
後ろから抱きしめられ首に回った腕に軽く手を乗せる
「気に入ったか?」
『うん。ありがと』
人肌を感じながら暗闇に輝くそれを眺める久々の休日。