第2章 誓いのコトバ
春になり、庭で桜が咲き誇っている。
布の奥に見えるものが桜の淡い色に染まる。
俺はこの景色を見るのは初めてではない。丁度一年前、具現化されたときもこんな景色だった。
まあ、あのときよりも色々な奴が増えて騒がしくなったが…。
そんなことを思いながら廊下を歩いていると、縁側に座った見知った、小さな背中を見つけた。
大きな黒い瞳は何を見つめているのかと、辿ってみれば、大きな桜の木。
ゆっくり近づいてその隣に腰を下ろす。
急に現れた気配に驚いたのか、花弁のような唇が“まんばくん”と、形を作る。
でもそんな表情はすぐに溶け、微笑みかけてくる。
俺とは反対側に置かれていた紙と筆を手に持ち、手を動かし始める。
『どうかした?』
綺麗な字でそう書かれてあるのを確認して俺は口を開いた。
「別に…あんたの姿が見えたから気になっただけだ」
ゆっくりと唇を動かす。隣に座る少女が認識しやすいように。
『桜が綺麗だったから、見ていました』
そう応え少女はまた庭に視線を戻した。
暫くの間、二人で桜を眺めていた。
どれ程の刻が経ったかはわからないが、身に付けている布が引っ張られている感覚がして目をやれば、少女が手で掴んでいた。
「…?どうした?」
いつの間にか書いていたのか、顔の前で紙を持っていた。
そこに書かれていたのは…
『来年も、その先も、またこの桜を一緒に見ましょうね』
その言葉の奥に見えた少女の顔は桜よりも濃い朱で染まっていた。