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おにとゆうだち

第2章 夕立


「え?」

 彼の姿は消えていた。
 彼も、停留所を埋め尽くしていた蝶も、何もかも。

 顔を上げたら、いなかった。
 しばし私は固まった。
 
 唐突にあいた空間に、風が草のにおいを連れてくる。
 そっと首を動かして、外を見る。

 雨はすっかり止んでいた。それどころか虹が掛かっていた。
 陽が差してきたはずなのに、なぜだろう、馬鹿みたいに寒い。
 夏用の制服が半袖だからだろうか。それとも雨で濡れているからだろうか。

 二の腕をそっと撫でてみる。
 じっとりと湿った掌に、肌が柔らかく吸い付いた。

 停留所から出てみれば、外は夏の夕暮れといった様子を取り戻していた。
 蝉が鳴きだす。やけにうるさい。

 そういえば、彼はどうして、冬服を着ていたんだろう。
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