第33章 駆け引きなんていらない*今吉*
「苗字、ちょっとこっち来て。」
今吉先輩が私の腕を引き、体育館の裏に連れ出した。
久しぶりに彼と近付き向き合った。
「別に私がこれから誰と付き合おうと先輩には関係ないじゃないですか。」
ふてぶてしく投げやりに言葉を放った。
「つれへんなぁ。…なぁ、苗字。離れてみて気付いたなんて言ったらどうする?」
「…それどういうことですか?」
今吉先輩らしい遠回しな表現に、思わず惹き付けられた。
「苗字のことは元々可愛い後輩だと思ってたんよ。ワシのこと好きだっていうのも、言うてくれる前からすぐわかるくらいやったし。」
「わかるようにしてたんです。だって今吉先輩に駆け引きなんて通用しないと思ってましたから。」
フラれた今恐いものなんてない。
私は自分の気持ちを率直にぶつけた。
「そうやろな。ワシのすることに一喜一憂するのもおもろいなぁと思ってた。だからあの日まで気付いてなかったんや、自分の気持ちに。」
「私はあれを最後の告白にしたんです。それでも届かなかった。だから先輩のこと諦めようとしたんです。」
「…諦めようとしてまだ諦めてへんのなら、そのままでいてくれんか?ワシ苗字のことめっちゃ好きやねん。」
思わず耳を疑い、もう一度聞き返した。
「え?」
「好きや。苗字が構ってくれんくて予想以上に寂しかったんよ?」
いつもポーカーフェイスの彼が顔を赤くしているのが何だか可愛くて。
「…私だって寂しかったし苦しかったです。でも悔しいですけど、諦められませんでした。私先輩のこと大好きです!」