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笑って

第2章 背負うもの


結界からちょうど5歩の辺りで足を止め、
胸元で印を結ぶ。

その瞬間、大量の霊魂が一気に私の体を突き抜けた。


「んっ...ぐ.......」

顔を歪める私は、
体が壊れそうなほど軋む痛みを味わいながら、
通り抜ける霊魂を1人ずつ捕まえていく。

この時、印を絶対に崩してはいけない。
崩したら最後、霊魂の怨念や力によって、
『向こう側』へ連れ去られる。

【陰】である私は、生まれた時から『向こう側』に近かった。
だから、引き込まれやすい。


「ふー...ふー...ふー...」


体力と精神を同時に削られ、限界が近付く。
それでも100人程度捕まえた辺りでもう一度印を結んだ。

体を突き抜けようとする霊魂は、見えない壁に阻まれて、
もう私へは近付けない。
私は、頭の中に響く怨念や悲鳴、嘆きに一切耳を貸さずに
ふらふらと結界の内側へ戻った。

待ち構えていた朝陽の手が、私のお腹に触れる。


「.......」


朝陽が、微かな声で呪文を呟いた。

私には理解出来ないが、確か「去れ」という意味だ。
ドンッという衝撃が精神にかかり、
頭の中から霊達の声が消える。

崩れ落ちる私を抱き締め、朝陽は笑った。
思いっきり、楽しそうに。


「終わったよ、美夜。お疲れ様」


そんな朝陽の笑顔を眩しく思いながら見上げ、
私も微笑んだ。


「朝陽、.......笑って」

「うん」




fin.
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