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夜更けのお茶会

第1章 いつもの夜


今日は月夜。
玄関へ続く小道にある石ころが月の光を反射させてきらきらと輝いている。
わたしは玄関の呼び鈴を鳴らした。

「姉ちゃん、おかえり!」
元気の良い声がして、玄関の扉が開いた。
満面の笑みで出迎えてくれるのは、私の弟、ヘンゼル。

「ただいま、ヘンゼル。今日もくたくた・・・」
「大丈夫?無理しすぎてない?」
心配そうに私の顔をのぞきこんでくる。
この小犬のような目に、私は弱い。
「無理、してるかも」
ついつい本音を口にしてしまう。
「よしよし、がんばりやさん」
ヘンゼルは優しく頭を撫でてくれる。
涙がにじみそうになるのをぐっとこらえた。

リビングへ向かう途中、甘い香りが鼻をくすぐる。
「わあ、パンケーキ!」
テーブルの上には色とりどりのフルーツで飾られたパンケーキがあった。
「かわいい!いつもありがとう~ヘンゼル!大変だったでしょ?」
「 グレーテルのためならなんてことないよ。その顔が見たかったんだ」
そう言ってヘンゼルはわたしを抱き寄せ、額にキスをした。
わたしはヘンゼルに体をもたせかける。ヘンゼルの肩ごしに見える月は少しちょうどパンケーキのようにまん丸だ。
「 グレーテル、お風呂にする?おやつにする?それとも・・・」
わたしはくすりと笑った。
「ヘンゼルが決めて」
わたしが言い終わらないうちに、唇は塞がれた。もう、せっかちなんだから。
こうしてわたしと弟のいつもの夜は更けていく。
誰にも言えない、ふたりだけの秘密をふくらませながら。
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