第17章 私
私は、静かに大倉に話し始めた。
「実は、私は親の顔すら知らない捨て子だったんです。
雪の降る朝に教会の前に捨てられていたのを、
不憫に思ったシスターが助けてくれたそうです。
本来、赤ん坊であった私は孤児院に行かされるはずですが、私だけは教会で生活しました。
私の胸にあるアザのおかげです。」
その言葉を聞くと大倉はピクリと顔色を変え、
一瞬 口を開きかけたが、口を閉じた。
「このアザで神父様もシスターたちも、
みなさんと同じく私を神の使いだと言い、
私を教会に置いてくれたのです。
このアザが私を守る..だから神の道を歩みなさいと...。
そして、捨てられた私と一緒にあったのがあのロザリオなんです。
たぶん、私の母の唯一のプレゼントなんです」
大倉は静かに聞き続けていた。
「このアザはなんでしょう?
神の道とはなんでしょう?
私に貴方たちを救う力があるんでしょうか?
救う力は、この血にしかないんでしょうか?」
私の必死の問いに、大倉は悲しそうな顔をして見つめていた。
大倉「...........」
今の私は、この人を苦しめているだけだ。
「.......ごめんなさい。」
辛そうな私の顔を見ると、
大倉は静かに私の側に来た。
大倉「...いいえ、貴女には本当に申し訳ないと思ってます。そんな大事なロザリオすら取り上げてしまって...」
苦しそうに目を伏せながら呟く大倉に
「大丈夫です、理由は承知してますから」
私は笑顔で答えてみせた。もうこの人を苦しめたくなかったからだ。
そんな私の笑顔を見るとホッとしたのか、大倉の顔も少し弛んだ気がした。
そして、しばらくは沈黙の後に、大倉は口を開いた。
大倉「......貴女も孤独だったんですね..」
大倉の言葉に、私の瞳から涙が止まらなくなってしまった。
親もおらず、
望んでもいない神の道を歩かされていた私。
自分でも気がつかなかったが、孤独だったのかも知れない。
その孤独を分かってくれた大倉に、私の感情は溢れてしまったのかもしれなかった。
私と大倉は孤独という、接点で引かれたのかも知れない、だからこの人を愛してしまったんだ。
私は、この優しき吸血鬼の前で泣き続けた。