第9章 W・C
それからというもの、勢いを失っていた洛山は、赤司の行動と言葉で勢いを取り戻していった。むしろ今までより攻撃的になっている。また点差は開いていった。
「………はぁっ」
いつも冷静なはずの緑間も息が上がっている。
と、いうよりは焦りの色が拭えない。
残り4分。ボールを持ったのは高尾だった。
残り時間が少ない中で、コートの中はとてもバスケをしているとは思えないほどに静かだ。
ボールマンの高尾は、チラッと緑間の方を見ると、一瞬アイコンタクトをとった。それを見て緑間も小さく頷く。
「!!」
とっさに動いたのは洛山だった。
洛山側は、高尾に対してダブルチーム。四方を囲まれる形となってしまった。これでは緑間に正確にパスを出すなんて不可能だ。
と、思われたが、
「……こんくらいでテンパってて天才(真ちゃん)の相棒が務まるかよ。…なめんじゃねーよ!!」
高尾は素早く身を切り返してDF二人をかわして抜きさった。それを見ていた緑間もシュートモーションに入る。高尾は緑間目掛けてパスを出した。
「言ったはずだ。僕は絶対だと」
「なっ…………!?」
ボールは完璧のタイミングで緑間の手に渡るはずだった。誰もがそう思っていた。
皆唖然としている。想像もしていなかった。
まさか、あのタイミングで赤司にブロックされるなんて。
赤司は、高尾がそこで二人のDFをかわして、そこから緑間にパスをするということまで全て分かっていたかのようにそこに立っていた。
仲間でさえ、驚いた様子で見ていた。
赤司はブロックしたボールを掴むと、そのまま速攻で秀徳ゴールにシュートした。
想定外、痛恨のミスだった。
「いつも言っていただろう。相手に悟らせず未来(さき)を見すえてこその布石」
「クソッ……クソッ……」
ここまですべて、赤司の手の平の上だったということだ。全て仕組まれていたことだったのだ。
高尾は痛くなるほど奥歯を噛み締めた。
もうこれ以上、打つ手がない。
監督も拳を握り締めていた。
だが応援する声は決してやめない。
ベンチや応援席の部員、マネージャーもみんなで揃って声を出した。
「止まってちゃったダメ!立ち上がらなきゃ!」
そうだ、倒れることなど何も恥ではない。
そこから起き上がらないことこそ恥。