第9章 W・C
「オレは敗北を知らない」
「なに……?」
帝光中学の誰もいない教室で、赤司と緑間は将棋をうっていた。
「なんだそれはイヤミか?」
赤司のいきなりの言葉に苛立ちを覚えながら、緑間は自分の駒を板に置く。
赤司は緑間の眉間に皺が寄っていることに気がつくと言う。
「はは、いや…すまない。ただ今ふと思っただけだ」
そう言うと今度は赤司が駒を置く。
静かな教室の中、その音だけが響いた。
「決して望んでいるわけじゃない。知らないから興味があるというだけだ。それ以上のイミはない」
「それをイヤミと言うのだよ。ならばいずれオレが教えてやる」
緑間の言葉に、赤司は実にご機嫌そうにフッと笑うと、そのまま立ち上がり窓の外を眺めた。
「…そうだな、もしお前と戦うことになればさすがに手加減はできなそうだ。負ける気は毛頭ないがな」
「……ふん」
緑間は赤司の言葉に不愉快そうに鼻を鳴らした。
「ところで緑間…」
「うるさい。投了なのだよ」
またしても投了だ。
幾度となく将棋をうってきたが、緑間が勝ったことは一度もない。
いつも途中で勝てないと分かって投了する。
本当に、何者なのだよアイツは。