第1章 ヴィシャスなんかじゃないわ!/×澤村大地(ハイキュー!!)
そして2月14日、高校生たちは朝から浮き足立っていた。
男も女も、果ては先生方までそわそわしている。
女子生徒たちは友チョコを配り歩いて、そこらの男子なんかよりずっと多くのチョコレートを獲得していた。
わたしは、ちらりと自分のカバンの中に入っているチョコレートを見た。食べたい。物凄く、食べたい。
教室中が甘ったるい匂いで飽和状態で、わたしはもうぶっ倒れる寸前まで来ていた。ああ、このタブレットを食べることができたら、わたしは死んだっていい……。
放課後、バレー部が始まる前に澤村を人気のない地学教室に呼び出した。
ここら辺は殆ど生徒も先生も来ないから、ちょっとした穴場だ。
「あ、あのね、さわむら……」
わたしはモジモジと、後手に例のラッピング袋を隠して澤村を見つめる。
彼も彼の方で察したのか、少し嬉しそうに、なんだ、と返してきた。
「あ、あのね……」
わたしは、すうっと息を吸い込んだ。
「ごめんなさい、あなたに用意したチョコレート食べちゃいました」
わたしがバッと出したのは、既に包むべき中身を失った綺麗な紙切れで、澤村はポカンとそれを見ている。
「ごめんなさいぃ! でも凄く美味しかったですぅう」
涙と汗がぼろぼろと出てきた。今までチョコレートを必死で我慢してきたのに、食べてしまった。
澤村のために用意したのに、食べてしまった。
我慢のきかない自分が情けなくてしょうがない。
「い、いや……別にそれはいいけど……」
澤村は、笑いを堪えるようにして、手を口元にやった。
心なしか体が震えている。
「なんで笑うのぉ!? わたし必死なのに!」
「いや、ごめ、ん。なんか、可愛くて……」
ぶっ、くくく、と笑いながら澤村はわたしの頭を撫でた。不本意である! 遺憾である!
わたしがむくれていると、彼は眉を八の字にして謝ってきた。
「ごめんごめん、バレンタイン、用意してくれてありがとうな」
澤村は、わたしの肩に手をかけて、顔を近づけてきた。
ああ、そうか。そういえば、チョコレートはこんな所にもあったんだった。
わたしはいつもより積極的に、澤村とのチョコレート交換に勤しむことにした。
fin.
Happy Valentine Day !