第4章 散切り頭を叩いても手が赤くなるだけに決まってる/×坂田銀時
空は鉛のような色をしていて、はんてんを羽織っているとはいえ如月ともなれば気温は一桁。
寒さに震える己の体をさすりながら、坂田銀時はかぶき町をふらふらと歩いていた。
その瞳はいつも以上に濁りきっていて、死んだフグの目そのものだ。
左頬には靴底の跡が黒く、くっきりと付いている。
「アァ~~~今日はサイアクの日だな、まったくよォ」
ブツクサと文句を垂れ、悪態をつきながら万屋へと向う。
その途中で懇意にしている団子屋があるのを思い出して、そちらの方へと方向を変えた。
今日は2月13日、明日は忌々しくもバカバカしい、女どもが本命だァ義理だァ友チョコだァ、とにかく小うるさくなるバレンタインデーだ。
ただでさえそんなイベント事は面倒で仕方がないのに(別にィ? モテねーから僻んでるとか?? そういうことじゃないですけどォ?)、今日は大事な糖分摂取まで出来なかった。
人生最悪の日、と言っても過言ではない。
団子屋の前で立ち止まり、自分の手持ちの金額を確かめていると店の外に腰掛けられるよう置いてある縁台に、見知った顔――忘れたくても忘れられない顔が座っているのが見えた。
海老茶式部の袴に朱色の着物。柄は柚小桜で、その少女の可憐さを強調しているようだ。大して可愛くもねーくせに。
そこそこ長い髪の毛を束髪くずしにしている。
そして彼女が履いているブラウンの編上げブーツを、彼は一生忘れないだろう。
彼女は真っ白な手でおはぎを一つ掴み、袂から赤い小瓶を取り出した。
――ラベルには、『一味』の文字。
銀時は顔を真っ青にしながら、それをハラハラとした様子で見ている。まさか、まさかこの女。
彼の脳内では、おしとやかな雰囲気で微笑む一人の女が通り過ぎていった。アイツも、極上の辛党だったはずだ。
少女は嬉しそうに、おはぎに真っ赤な粉を振り掛けだした。
一回、二回、三回……最初は綺麗な小豆色をしていたそれも、とうに赤で塗り替えられてしまっている。
山のように盛られた一味を見つめ、うっとりとする少女。
しばし眺めた後で、大きく口を開けてぱくりと口に含む。
んーっと美味しそうに笑う少女の味覚は明らかにイカれている。天人か、オイ。