第10章 地下へ
黒髪からのぞく肌が妙に青白く、薄くひらいた瞳に光がない。
それに、抱きとめている体から温かさを感じられない。
耀から視線をあげる。
深くうなだれた、長い黒髪が目に入った。
いすに座っていた湾ちゃんだ。
髪の間からわずかに窺える肌が、ゾッとするほど蒼白に染め上げられている。
ドサッと、背後でなにかが倒れた。
ギチギチと耳障りな音がしそうな、錆びたネジのように回りづらくなった首を動かす。
視界のはしに侵食してきた光景――
やわらかいブラウンの髪が、床にうつぶせになっていた。
「湾……ちゃん、フェリちゃん……?」
絞り出したかすれ声に返答はない。
そばにギルも倒れている。
開いたままの目は、完全に濁りきっていた。
血のように赤かった瞳が……あぁ、彼の上半身に血溜まりができている。
赤い。
目眩がするような、むっとたちこめるその色から目を背けたいのに、目を背けたいのに目を背けたいのに。
、、
それに両眼がはりつけられてしまって。
侵食する赤は、勝ち誇るようにギルの体を蝕んでいた。
「……なん……で」
支えている耀の体が、どんどん重くなっている気がする。
それに比例して、彼の体が温度を失っていく。
「やだよ……なによこれ……」
なにも答えてはくれない唇は、暗い紫色に染まっていた。
その色彩が肌の白と対照的で、病的な美しさを醸し出している。
皮肉なことに、ようやく思考能力が回復してきた。
眼前の惨状を否定したいのに、脳の回路が絶対不動の事実を突きつける。
でも、おかしい。おかしいよ、こんなの、まるで……
「死――」
プツン
時のとまったような静寂に、なにかが切れる音がした。
「いっ――いやああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」