第8章 In the closed closet
3人をいさめようとすると、視界の端で茶色い上着がぴくりとした。
私とフェリちゃん以外は、喧々囂々として気づいていない。
――ゆらり
アルの上体が起きあがる。
「……っ」
体が竦んだ。
匂いたつような殺気が、彼から立ちのぼっていた。
さすがに気づいたのか、3人が水を打ったように静かになっている。
不思議なことに、傍らのフェリちゃんが一番冷静に目を据わらせていた。
「……」
眼鏡の奥の青い瞳は身じろぎひとつしない。
逃げられ、ない。
「公子、俺と一緒に来てくれるね?」
――このアルは、私の知ってるアルじゃない。
ゴリ押しで連続徹夜したせいか、おかしい。かなりおかしい。いやいつもちょっとおかしいけど、今回ばかりはどうしようもなく手に負えない。
ガタガタと震えていると、突然腕が引っ張られる。
「ひゃっ!?」
「公子ちゃん走って!」
フェリちゃんに手を握られ、私は走り出していた。