第8章 In the closed closet
え?
……え?
「おっ俺は別に来たくなかったんだからな」
「すみません、私は止めました、止めたんです、でも――」
大体わかった。菊、お前は頑張った。頑張ったよ。
しかし、だ。
なぜルートは、私を隠れさせるまでしたんだろうか?
「なぜお前らが来るんだ」
抑え気味だが、ルートの声音は心底嫌そうだった。
枢軸水入らずの食事に、味音痴が混ざるのだ。
混ざるというか、もはや異物混入。
食品検査ではじかれるレベル。
いや、はじかれるべきレベル。
「別にいいじゃないか。ワォ、料理すっごく美味しそうだね!」
「すみません、本当にすみません」
「いい……」
「かくなる上は切――」
「本田じゃなくても止められなかった。とりあえず座れ」
なだめるように、半ば諦めてルートはそう言う。
そのあと、ルートのものらしき咳が聞こえた。
「なんだ、風邪でもひいてんのか?」
珍しげに尋ねたのはアーサーだ。
「あぁ、うつすと悪いから帰ってくれないか?」
「だから俺はアルに無理矢理――」
「帰っていいぞアーサー!」
「――あ、あと菊と話すことがあってだな!」
「……え」
「そうだよな菊! なっ!」
「あ……はい」
空気を読んだ菊が答える。
一連の流れをぜひとも目にしたかった。
扉と扉のあいだにほんの少しの隙間があるが、見えそうにもない。
というか動いたら物音を立ててしまう。
今更ながら、クローゼットが恨めしかった。