第42章 諸刃の刃の切っ先で
「このプログラムに“同期”しなければ、1時間以内にプログラムが自己破壊します。だから今すぐ、誰が行くか決めないといけません」
重々しい声で、ライヴィスが言った。
真剣そのものの顔で、瞳に悲愴ともいえる陰を湛えていている。
あの手形に触れたら、このディスプレイの中へ――ゴーストタウンへ飛ばされてしまうのだと、本気で言っている。
「私に行かせてください」
それを見ていて、自然と一歩前に歩みだしていた。
とたんにエドに止められる。
「だっ、ダメですよ! 何かあったら――」
「だからこそ、です。国である皆さんに何かあったら、国民はどうなってしまうのですか?」
「っ!!」
「私と皆さんでは背負っているものの重みが違います」
命に優劣などつけられないが、これは事実だった。
異変真っ最中に国である彼らになにかあれば、その国民にどんな影響があるかわからない。
「それに、私、異世界人ですし、なんとかなりますって!」
笑顔を浮かべてみせるが、3人は言葉を詰まらせたままだった。
「それに皆さんのサポートもある。ヨユーですよ!」
“double edged sword program”
私がまだ私の世界に戻されていない理由が、わかった。
彼に託された“これ”で、何かを成さねばならないのだ。
それが、行使する私の手までもを切り裂くものだとしても。
――――
――
……手形に触れる。
青白い光の中に、手が沈みこんでいく。
デバイスはひんやりと冷たく、その冷気が触れた指先から染み込んでくる。
一瞬クラっと目眩がし、次に目を開いたときには、
「え――?」
黒い靄をまとった“人”が、私に向かって拳を振り下ろそうとしていた。